既卒のための業界解説|代理店営業はつらいよ(生命保険業界編vol.2)

既卒のための業界解説|代理店営業はつらいよ(生命保険業界編vol.2)

こんにちは。保険業界担当講師の保険一郎です。前回の記事既卒のための業界解説|何かとブラックと噂の保険業界って実際どうなのよ?(生命保険業界編vol.1)では、何かとウワサの絶えない生命保険業界のあれこれについてお話しました。

今回の記事では、私が行っていた「代理店営業」についてご紹介できればと思います。

生命保険の代理店営業について

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私が所属していた生命保険会社では「代理店販売」をメインチャネルとして採用。社員やセールススタッフに代わり、代理店委託契約を締結した個人や法人が、顧客へ商品セールスを行う形態をとっていました。

彼らは社員ではなく代理店契約で結ばれただけの関係のため、会社が景気上昇局面では増加、停滞局面では縮小と、状況に応じて数を調整できることがメリットとして挙げられます。また、報酬は基本売上保険料の一定%となるインセンティブ方式なので、全く契約が上がらない代理店に余分な経費をかける必要がないということも、保険会社にとってメリットだと言えます。

こう書くと、互いに契約上のギブアンドテイクだけの関係であるという印象を受けるかもしれませんが、少なくとも私が経験した現実の世界はもっと複雑なものでした。これから営業部門に配属され代理店営業を経験する方もいらっしゃると思いますので、私の経験が何かの一助になればと思います。

じゃあ、代理店営業社員は何をするの?

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営業部門の社員は立場上、基本は顧客に対して直接営業をすることはありません。なぜなら、それらは代理店の仕事だからです。「それなら楽じゃん!」と思うかもしれませんが、実際はそんなことありません。日常業務は非常に過酷です。なぜかというと、だいたい一人の営業担当が常時40店ほどの代理店を担当し、そこに対し主に下記のような業務を行っています。

 

  • 代理店からの問い合わせ対応(契約事務、審査引受目安、保険金支払条件など。1日に20-30は来る。大半はベテランの代理店でも分からない難解な内容なので本部への確認が必要)
  • 本部営業統括部門の営業施策(DMやその他いろいろ)の案内および参加勧誘
  • 実施中の営業キャンペーンの進捗確認および叱咤激励
  • 本部コンプライアンス部門の管理施策の案内および監査証跡の取付け
  • 全代理店参加の月例会のトピック集めおよび月例会実施(100以上の代理店が参加)
  • 有力代理店を訪問し、営業施策を検討
  • 提携金融機関社員向け教育実施
  • 代理店とトラブルを起こした顧客に対する事情説明および沈静化
  • 代理店主催の顧客向けイベント準備(搬入、搬出、チラシ、ノベルティ準備)
  • 有力代理店と定例の親睦会実施
  • 新規代理店希望者との面談

最初に述べておきたいのは、代理店は立場上「協力会社」のような位置づけなのですが、立場は代理店の方が圧倒的に強いです。なぜならば、代理店は他の保険会社との契約もできるため、商品が競争力を失ったり営業とケンカをしたりすれば、すぐに契約を終了。またはその会社の商品を売ることを止めてしまうからです。

それはすなわち、多額の売上喪失を意味し、担当の社員の評価は著しく下がることを意味します。したがって、営業社員は代理店のあらゆるニーズにタイムリーに応えねばならず、土日祝日にも営業携帯電話が延々と鳴り続けます(土日祝日は、彼らがサラリーマン世帯を訪問するので当然ですが…)。

近年はどの会社においても、本部部門が営業施策やコンプライアンスに過剰に統制を利かせる傾向があるようで、無駄に代理店と営業社員の労力を割くような指令が、大量に降ってきます。例えば、営業本部が毎月のように商品DMを新規発行し、代理店に買い取らせるために営業社員にノルマを課し、それを支社単位でランキング付けするようなことをするのです。

DMをそんなに毎月のように買えば代理店の出費もかさみますし、そもそもDMを同じ客に短い頻度でしつこく送り続けることが売上につながるという、本部の発想そのものに疑問がわきます(代理店ははっきり「効果がない」と拒絶しています)。

またコンプライアンスにしても、ことあるごとに全代理店から誓約書やチェックシートなどを取り付けさせ、年間を通して計画的に実施すれば少ない回数で済みます。しかし思いつきのように、断続的に取付けを強制。これらは代理店の営業行為を著しく妨げるものにもなるだけではなく、社員にも多大な負荷がかかります。

しかしながらどの会社もそうですが、営業部門は一番立場が弱いので、反論の余地はありません。ひたすら期限までに実施することのみが求められます。正直、私は上記に列挙された定常業務をさばくのが精一杯で、完全に自分で考える力を失ってしまっていました。

成績を上げる営業員の手法

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これだけの過酷な環境の中でも成績を上げる営業員は確かにいます。実を言うと、私も在籍7カ月間で2度、支社トップの成績を獲得したことがあるのですが、営業戦略は社員により全く異なっていました。ここでは代表的な2つの方法を挙げてみます。

1.選択と集中戦略

多くの社員が採用している方法がこちらです。内容としては、40代理店のうち、全体の売上の7割程度を挙げている代理店(10程度)に営業ターゲットを絞り、そこに営業施策や訪問などを集中させる方法です。下位代理店からの問い合わせについては基本代理店用コールセンターへ誘導し、自らは答えないようにします。また、営業キャンペーン案内もFAXで済ませます。これにより限られたリソースを強い代理店に投入することができ、その売上を強化すれば全体的なインパクトが大きくなるという考え方です。

実情から申しますと、2年以上、体を壊さず営業を続けるためには、これしか選択肢がないというのが現実です。1人が最大で管理できる人数は5-7人という一般論からも、この方法の妥当性がうかがえます。理想的には全代理店を管理できた方が良いのですが、現実は厳しいんです…。

2.ロングテール戦略

これは私がとった戦略です。「選択と集中戦略」を取っている社員の場合、長年放置されている残り30代理店はほとんどやる気を失い、売上もほとんどありません。しかしながら、仮にこの30代理店が平均で少しずつ力を出せば、強い代理店が仮に昨年のレベルから変わらないとしても、大きく数字を伸ばすことができます。

例えば、「選択と集中戦略」戦略においてトップ10の代理店の総売上を70%とします。そして30%が、下位30代理店分とします。ここで、営業施策によりトップ10が昨年比120%を達成したとすると、総売上は以下のようになります。

( 70% × 1.2 ) + 30% = 114%増

次にこんなケースを考えてみましょう。トップ10代理店はただでさえ売上が高いので、それ以上伸ばすことが非常に難しい。でも、それ以外の代理店は売上をまだまだ向上させる余地があります。であれば、売上を向上できる余地がある方を伸ばす方がやりやすいと思いませんか?80点を取っているテストを96点に近づけるよりも、40点を60点にする方が簡単でしょう。ちなみに、この場合はこんな感じ。

70% + 30% ( 1 + 0.5 ) = 115%増

トップ10は毎年のように営業強化を求められているため、実際にはリソースを投入してもまず120%も伸びません。せいぜい110%がよい所です。しかし、二つ目のケースでは、例えば1代理店あたり契約2件程度を頑張ってもらうだけでも圧倒的な前年比を達成できるのです。ちなみに、私が2度トップとなったときの数字は前年比134%、151%でした。いずれの時も上位代理店は昨年比からそれほど変動がない状態でした。

私がこの時に何をやったのかと言うと、このような感じです。

  • 下位代理店の問い合わせは全部私が処理した
  • 多くの代理店の問い合わせにタイムリーに答えるため、上位代理店の訪問を止め、基本、支社在所型の営業スタイルに変えた
  • 上位代理店とは別に、下位代理店向けの集団勉強会&懇親会を定例開催した
  • 下位代理店への営業キャンペーンの進捗状況を細かく電話でフォローした

基本上位代理店の方は、経営や生活のために放って置いても一定の売上は確保します。更にその中にも「頻繁に顔を出して欲しい」という方と「呼んだときに来てくれればいい」という方で分かれているため、無理に訪問するのが必ずしも有効とは限らないのです。

ただし、この話のオチとしては、私は「ロングテール戦略」により限界まで気力体力を使い果たし、転職する頃にはまさに満身創痍となっていました。個人的には悔しいですが、長期的なスパンで営業を続けるには、「選択と集中戦略」を取らざるを得ないのかもしれません。

代理店と社員の関係

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代理店の方は、基本的に個人商店の社長や主婦、他業種との兼業といった普通のおじさんやおばさんが大半を占めています。ですから彼ら、彼女らは社員のことを子供や弟分・妹分のように感じています。

彼らは保険会社と20年以上付き合いがあることも珍しくなく、正に会社を支えてきた「屋台骨」のような人たちです。そしてこれまで何代もの担当営業を見てきており、出会いと別れを繰り返しながら仕事を続けているのです。

だからこそ、彼らは真剣に自分達のために努力している営業か否かを瞬時に見抜き、もしその真剣さが伝わった時には、彼らも協力してくれます。

また、プライベートでも本当の家族のように接してくれることもあります。畑で取れた野菜をおすそ分けしてくれたり、食事をごちそうしてくれたり、知り合いの陶芸家に頼んで茶碗を焼いてくれたり…決して長くはなかった私の営業時代でも、彼らからはとても多くのものをもらい、むちゃなお願いもたくさん聞いてもらいました。

ただ、彼らの中では、最近の営業社員は上位代理店だけしか見ておらず、自分たちのような上位ではない代理店をないがしろにしている。昔とは違う…と感じている方も多くいました。

代理店営業における社員の仕事は年々過酷になっています。その中で自分たちの会社を支えてくれた代理店へケアをする時間が段々失われていくのは、互いにとってとても悲しいことです。もし、みなさんがこれから営業社員を経験することがあるのならば、大変とは思いますが、できるだけ多くの代理店と密にコミュニケーションを取ってもらいたいと切に願います。

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